クラシックなアメ車の魅力を、これまで400台以上のアメ車を乗り継いできたIKURAさんがお届けする当連載。今回は誰もがその名を知りながら、意外に見過ごされてきたという不認知カー、キャデラック エルドラド 71年式だ。
歳を重ねた今だからこそ、似合うようになった名車。
アメ車好きならその名を知らない者はいないのが、キャデラック エルドラド。 最も印象的なのは、1959年型だろう。 華やかなりし時代を象徴する、まるでジェット機のような大型のテールフィン。まさに ”アメ車とはこういうモノ“を体現する1台だ。
しかし、IKURAさんは そんな時代とは距離を置く。「もちろんカッコいいんだけど、いかにもアメ車って感じで、なんだかコスプレみたいになっちゃうんだよね」。たしかに50年代だけでなく、60年代のマッスルカーも然り、それらの時代は誰もが想像できるアメ車像がデキ上がってしまっている。
そんな中、IKURAさんが目をつけているのが 1970年代のエルドラドだ。「いわゆるツードアセダン。アメ車を乗り尽くしたオヤジがたどり着くのはコレって感じかな。オレの世代だと、子どものころに近所の金回りのいいオジサンが乗ってたんだ。デカくてゴージャスでしょ?そりゃあインパクトあったよ」。
とはいえ、70年代に入るとオイルショックの影響で、排気量や馬力は低下。クラシックなアメ車の末期ともいわれる71年型は、エルドラド7世代目の初期にあたる。8.2リッター・V8の500エンジンを積んでいるが、以降は年を追うごとにダウンサイズするのだ。「古き良きアメ車の魅力を継承する、最後の世代といったところかな。それにこのデカさ! 都内のワンルームと変わんないんじゃない? もはやmmとかcmじゃなくて、平米や坪で表した方がいいかもね(笑)」。
一方で、このエルドラドは街になじみやすいのだとか。「特にこの色は品がいい。 アメリカ的なコーンポタージュ色ってやつ?日本車でこの色は出せないよね。コーンというより稲って感じになっちゃうんだよなぁ(笑)」
キャデラックこそがアメ車のキングだ!
実はIKURAさんは、これまでキャデラック エルドラドにひかれたことがなかった。しかし、ある人との出会いで魅力に目覚める。それが、今回登場したエルドラドのオーナーである舟橋さんだ。
おおよそ5500mmを超える全長のアメ車を指して、フルサイズと呼ばれる。70年代のオイルショックを受けてアメ車全体が小型化の一途をたどり、今となっては驚愕のサイズに
舟橋さんのガレージには、71年型とともに、74年型、78年型と3台が並ぶ。「僕は1969年生まれ。70年代のセダンが好きなのって、世代なんですよね。子どものころは高級車といえばアメ車でしたが、街を走っているのはほとんどがセダン。とはいえ、そのころに初めて乗ったアメ車はフォーミュラ400でした。エンジンがブワッと唸りを上げた瞬間に、ヤラれちゃいましたけどね(笑)」と語る舟橋さんに、IKURAさんは「イッちゃったってことですね(笑)。童貞なのに、いきなりいい女に乗っちゃうなんて、よくないなぁ〜!」。
両者曰く、エルドラドの71年型はそんなマッスルカーの面影を残しつつ、大人なしっとり感が両立しているのがミソだとか。「ハンパと言えばハンパだけど(笑)。それでもキャデラックらしいゴージャスさはすごい。キャデラックって、黒人の成功者にとってのトロフィー的な車でもあるんですよ。映画『ゲット・レディ! 栄光のテンプテーションズ物語』でも、「マイ・ガール」という曲が大ヒットした時に、メンバーそれぞれキャデラックに乗っていくシーンがあるでしょ。そういうカルチャーも含めて見ると、やっぱりカッコいいよ」。
自身もキャデラックには特別な思い入れがあり、数々乗り継いだ中でも必ず1台は押さえていると語るIKURAさん。なんと今回紹介する1台を舟橋さんから譲り受けるそう。「ずっと見てたら、ビンビンになっちゃって(笑)。となると、イッちゃうよね!」
Profile: IKURA これまでに400台以上のクルマを乗り継いできたカーマニア。日本最大級のアメ車・カスタムカー・ビックバイクの祭典“アメフェス”の主催者でもある。今年は7月28日に開催予定だ。ミュージシャンやタレントとしても活躍中。HP:ikura61official.com/ |
写真/池村隆司 文/安岡将文 撮影協力・オーナー/船橋邦夫