『CATCH THE WAVE 〜人生の波に乗る!〜』は、さまざまな職業の方にフォーカスする連載企画。初回となる今回は、私たちの生活と密接な関係である住宅を手掛ける「大工」がテーマ。その中でも一般的には宮大工と呼ばれる、伝統工法をあえて住宅の建築に取り入れている藤本工務店の藤本さんにお話を伺った。伝統技術の継承に情熱を燃やす覚悟は、刺激にあふれている。
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お話を聞いたのは…
藤本工務店 住:神奈川県三浦郡葉山町上山口2368-1 |
伝統技術を柱として、
自然と向き合い続けたい。
「日本の住宅平均寿命って知ってますか。30〜40年程度と結構短いんですよ。そしてコンクリートの耐用年数は60年前後。どんなにいい家を造っても基礎コンクリートの上に家を建てればコンクリートの寿命が家の寿命になる。ですが石場建て伝統構法で建築すれば何百年も残ります。607年に建築の法隆寺がその代表例。しかも建築の過程でほぼ廃棄物が出ない。こういった建築技術を大切にしていきたい」。そう話すのは、藤本工務店を営む若き棟梁・藤本嶺さんだ。1990年、横須賀市生まれの藤本さんは幼少期から木造建築の実家や、三浦半島の自然の中で過ごし、高校卒業後は大工の道へ。10年を超える修業が必要なこの世界で、わずか5年で棟梁となり8年目で自分の工務店を立ち上げたという。この独立は、大工としての実力が付いたことに加え、本気で自然と向き合うには、自ら意思決定しなければならないという覚悟の表れと振り返る。
藤本工務店のコンセプトは新築の古民家づくり。要は将来古民家になる家を造るのだ。モデルルームでもある藤本さんの自宅を訪れると、石場建て・手刻み・土壁といった伝統技術が目に留まる。コンクリートを基礎とした建築が当たり前になっている今、特に地面と木造建築の間に石を挟む石場建ては新鮮だろう。そんな技を駆使した建築は、1軒あたり約1年かかるほどの高度な技術が必要であり、広まりづらい。そこで伝統技術を含め、多くの人に自然を身近に感じてもらうため藤本さんはさらに2つの顔を持つ。1つは、地元有志メンバーで林業を行う団体・葉山の森保全センターの代表理事。2つ目は、国産無垢材を贅沢に使ったフィットネスジム・アンドフォレストを運営する会社、森のサラダの社長だ。「やはり工務店を営むうえで、林業は切っても切り離せない。三浦半島は従事者がいなくなり、危険な場所もあって。とにかくほっとけないし、森と関わる人材を増やせばいずれ大工の仕事にも還元できると思い、取り組みを拡大しました。まぁそれらを差し引いても、伝統建築・林業を含めた一次産業っておもしろいんですよ。子どものころから大好きな自然への思いを、いろんな角度から伝えていきたいですね」。伝統技術の継承とともに、地域の自然や資源を生かした持続可能な社会づくりへの強い意思を感じる。
text:Reo Ikeda