湘南の物件情報を見てみる。
あれ、意外と身近!?
そう思った途端、海街への移住に夢が膨らむ。
でも自然と地域柄が気になってくるのは根っからの心配性だから(?)
どんな人が住んでいて、どんな暮らしをしていて、どんなお店があるのか。住んでいる人に聞いてみようというのが本企画の趣旨。
第二弾の今回は、由比ヶ浜が目の前という抜群のロケーションに加え、炭火で焼いたこだわりのパティが自慢のハンバーガーが注目を浴びる、good mellows(グッドメローズ)のオーナー・ヤスさんが登場。
鎌倉生まれという生粋の鎌倉人である彼の話を聞けば、この地域のリアルな魅力が垣間見えるはず。
オーナー・ヤスさん。オフの日はお店近くのサウナで体を癒やす。キャンプも趣味のひとつだという。
ーーまずは、お店を始めたきっかけを教えてください。
もともと大家さんが知り合いで、いろんな条件がちょうどピッタリ合ったタイミングだった。鎌倉にこだわっていたというより、「今しかない!」っていう感覚でしたね。ちょうど25歳のときで、何か始めないと前に進めないって思っていたんですよ。まぁ、父親が自営業をしていた影響もあったんだと思います。
ーー25歳!? 若いですね!
その頃まではよく遊んでました。しかも結構ハデに(笑)。でも、あるタイミングで「このままじゃダメだ」って感じて、思い切り仕事をしなきゃって。それまで好きだったものも、だんだん嫌いになっていき……。「もう仕事に集中しよう」って割り切りました。アンダーグラウンドなカルチャーが好きなんですけど、お店を始める前は、鎌倉の※ビルズなど、いわゆる流行を作り出すオーバーグラウンドの世界で飲食業界について勉強させてもらったりしましたね。
ハンバーガーに挟むパティは炭火でじっくり焼き上げているため、外はカリッと、中はジューシーに。このバーガーを食べるため、平日・休日問わず鎌倉市内外から多くの人が訪れる。常連客の中には、有名な漫画家やスタイリストもいるとか。
ーー急に切り替えるってよほどのキッカケがないと難しそうですが……(笑)。
僕には姉がいるんですけど、そのお姉ちゃんにそそのかされました(笑)。「アンダーグラウンドがいいだなんだって周りを馬鹿にする前に、ちゃんと世の中を1回見てから言いなさい。その人たちはあなたの知ってる世界の何倍もお金を回してるかもしれないのよ。何も知らずに『あいつらはダメだ』って言うのはダサくない?」って(笑)。本当にお姉ちゃんには感謝してますね。
クルマの音ですら
波の音に聞こえてくる。
ーーお店を営んできたなかで、意識しているものがあれば教えてください。
「1つの場所に居続ける」ってことが意外と重要。飲食店ってそこがポイントだと思ってて、行けば必ず店があって自分がいる。そうするとみんな信頼してくれるんですよね。だからオフの日もこの辺りで過ごすことが多い。どこかに出かけたりすると、なんだか良くないことが起きたり、たまたま大事な先輩が来店してたのに会えなかったりするんですよ。
だから今はなるべくこの近所にいて、すぐに反応できるようにしてますね。先輩が海で遊んでたら、僕もすぐ飛んで行くみたいな感じ。まぁワーカーホリックですね、これは(笑)。
ーーその原動力は? 好きな人に会えてシンプルに楽しいからですか?
今は特に自分のためというより、関わっている人たちにいいパスを出せたらなって思ってる。ここにいることで人と人とをつなぐ装置みたいな役割になりたいですね。僕が上の世代と繋がって、下の世代にコミュニティを広げていく。そんな役割を果たせたら最高。必要な人に必要なパスをだすことって結構あると思うから。
ーーとはいえお店を続ける上で、大変なこともあるのでは?
もちろん、忙しさでストレスを感じることもある。でも夕日がピンク色に染まり、ヤシの木が揺れる……。そんな海の景色が近くにあれば、すぐにそのストレスもチャラにできるんですよ。なんなら目の前の134号線を走るクルマの音が波の音みたいに聞こえてくるくらい(笑)。それくらいこの場所を愛してずっと居続けると、こんな感覚になれるんだなって。
ーー素敵な言葉ですね。 それって一種のすり込みみたいなもの?
そうかもしれませんね。でも、この表現ってリリックだと思う。たとえば、クルマの音が波の音に聞こえるっていうのは音楽を通して生き方を見つけてきた人たちが作り上げた「より良く生きる方法」なんじゃないかと最近気がつきました。
グッドメローズって店の名前を自分でつけといてなんなんですけど、改めていい名前だなって……。「メロー」って、徐々に良い感じになっていく、熟れていく、盛り上がる、という意味があるんですけど、「グッド」を合わせて直訳したみたらごっつええ感じじゃん!ってなった(笑)。我ながら最高な名前つけたなって。なんかそうやって今ある世界を大事にしているだけなんですけどね。
ーー都内に行くことは? 鎌倉ですべてが完結しているイメージがありますが……。
レコードを集めるのが好きで、買うために東京へ行くことはある。でも電車の往復がめちゃくちゃ疲れるんですよね(笑)。夜に帰ってきて鎌倉駅に降り立った瞬間、森の香りや木の匂いがふわっとして、空気が少し冷んやりしてるのを感じると「あ〜帰ってきたな」ってホッとします。
もちろん東京にも大好きなお店がいくつもあって、そこに何度も通って自分の居心地の良い場所を作ってますよ。それがあるから、新しい情報も入ってくるし、友達が東京に行くと「ココがいいよ」って紹介したりできる。
今はSNSのおかげで、離れていてもリアルタイムで繋がっていられるのがすごくいい。「あそこの店に誰々が行ってるよ」とか、友達から連絡が来て、そこから会話が広がっていく。SNSは遠くからでも居心地の良い場所を作れるツールだなって感じてます。
湘南では、今の瞬間も
思い出に変わる。
ーー湘南は自然と人が集まるイメージ。やっぱりお店にはいろんな人が来店する?
よく来ますね。僕の中では「船」にたとえるのが1番しっくりきてて、大きな船も小さな船もいろいろ訪れる。テレビの有名なディレクターが来ると「おっ、大きな船が来た!」って思うし、僕たちは仲間と一緒に小さな3人用のボートに乗ってるような感じ。でも、みんな同じ方向に進んでる感覚があって、大きな船の人たちも小さな船だからって無視するんじゃなくて、「ヤスくん、ちょっと一緒に行こうよ」って声をかけてくれる。船の大きさは関係なく、行き先が同じかどうかっていうのが大事なんですよね。
で、普通、そんな人たちは鎌倉に遊びに来たら、神社に参拝して海を見たりすることが多いと思うけど、そこで友達がいるともっと楽しくない? 仲間のお店で人混みを避けてちょっと休んで、「今日はここに行くと楽しいよ」なんて会話ができたら最高じゃないですか。そういうときに僕たちも鎌倉でオススメのスポットを知っていれば、すぐに紹介できる。だから地元のお店同士が仲良くしていて、遊びに来た人が「この街いいね」って思えるように、仕事以外の部分でも協力し合ってるのが今の鎌倉なんですよ。
ーー地域に根付く1人として、市外から来る人とはどのように接したい?
今は外から来る人たちの方が力を持っている時代だから、そこに逆らうのは意味がない。誰の土地でもないし、そこで生まれ育ったからといって、俺の土地ってわけでもない。もちろんリスペクトは大事だし、それが文化を作ることもあるけど、ローカルだからって閉じこもるよりも外から来たおもしろい人たちと仲良くして、いいものを一緒に作っていく方が絶対にいい。それに、街全体が変わることも悪いとは思わないんですよ。だって鎌倉はずっと変わり続けてきた街だし、これから変わっていく姿を見続けていくのも、楽しそうでしょ?
昔の由比ヶ浜周辺の様子を写した写真。「父親が急に写真を整理し出してね(笑)。 興味深くて借りてきた」
ーー湘南ってどんな場所ですか?
え〜なんだろう……。僕にとって湘南は日常だけど、たとえばデートで来て夕日を見たり、そこでプロポーズしたり、人生の大切な瞬間に立ち会う場所でもある。ドラマのオープニングで海のシーンが流れるみたいな。そんな象徴的な場所だと思います。昔から『俺たちの朝』とか、ホイチョイプロダクションの『波の数だけ抱きしめて』や『稲村ジェーン』、あとはシェアハウスで男女が一緒に住むような設定の恋愛リアリティショーもありましたよね。そういう物語が湘南を舞台にして繰り広げられてきました。ずっと昔から男女が出会って、夢に向かって頑張って、それぞれのカッコいい部分を見つけていく場所なんですよ。
で、その動画の背景にあるのが、当時のコーラの看板だったり、乗っていたダットサンだったり。みんながそういう元ネタを話し続けているんですよね。ずーーーっと(笑)。「あの頃はこうだった」とか、そういう感じで。
湘南って、みんなの憧れが詰まっていたり、誰かの思い出になっていたり、誰かが大切に思っていたりする場所。だから、ひとりひとりにドラマがある。自分だけの湘南がきっとあるんだと思います。観光地というより、みんなの思い出が詰まった場所。そして今過ごしているこの時間もいつかは思い出に変わっていく。
しかも、こういうことを口に出しても恥ずかしくない空気感っていうか……。そういうのを受け入れてくれるような雰囲気があるよね。えぇ〜やんって(笑)。
【SHOP INFO】
good mellows(グッドメローズ)
住:神奈川県鎌倉市坂ノ下27-39
☎︎:0467-24-9655
営:10:30〜18:30
休:火曜
Insta @goodmellows