テレビ朝日のグループ会社でバラエティや報道情報番組などを制作してきたテレビ朝日映像が、長編オリジナル映画の製作に乗り出した。手掛けた映画のタイトルは『ありきたりな言葉じゃなくて』。待望のデビューが決まったばかりの新人脚本家の藤田拓也を主人公に、彼が直面する切なくて痛い物語が描かれている。
これは１つチャレンジだなと
思いながらやらせてもらいました。
拓也を演じたのは、ドラマ『あなたの番です』、NHK連続テレビ小説『まんぷく』など、さまざまな作品で活躍する前原滉さん。意欲的な作品の主演に抜擢された前原さんだが、実はオファーを一度は断ったのだという。「自分の状態的に100%前向きになれなかったので、主役っていうものをやることができないなと思って最初はお断りしたんですよ」
そこから出演へと思いが変わった理由はなんだったのだろうか？
「渡邉 崇監督やプロデューサーがエネルギーをもって接してくださって、そのエネルギーに後押ししてもらった形ですね。またそこにプラスアルファする形で、脚本のことも『前原さんからアイディアをいただきながら進めたい』と言っていただいたんですよ。シナリオに意見を出すというのはあまりやらないことなので、これは１つチャレンジだなと思いながらやらせてもらいました」
いつもはテレビ番組制作を手掛けているテレビ朝日映像が2021年に立ち上げた「映画プロジェクト」から生まれたのが、本作である。そうした意欲作への出演はプレッシャーにつながらなかったのだろうか？
「オファーをいただいた後の実際の顔合わせの場で、『これは社運をかけたプロジェクトで……』みたいなことを聞かされて『えー⁉︎』みたいな感じでした（笑）。ただ社運の責任は僕は取れないけど、やれることはやって頑張りますっていうのはありましたね。社運をかけてようがかけてなかろうが、僕らがいい作品にするためにやることは変わらないので」
自分に近い部分もある拓也を
あまり嫌いになれなくて。
前原さんが演じる拓也はデビューという成功に浮かれてしまったことから、予想もしなかったトラブルに巻き込まれていく。そこには彼の人としてダメな部分も透けて見えるので、観客にとってはあまり同情できない存在なのかもしれない。前原さん自身は拓也にどういう印象を持っているのだろうか？
「僕は拓也のことをあんまり嫌いになれなくて、自分に近い部分もあるなと思っているんです。拓也って漫画の主人公になりたい人間というか、特別になりたい人間なんです。だけど、現実はそうじゃなくて、自分の中からありきたりでない言葉を生み出せなかったりする。僕自身、役者という仕事はまわりに特別な人が多いけど、自分はそうじゃないなと思うことが多々あるんで、拓也のもどかしさはすごくわかるんですよね」
拓也はデビューが決まったことで、自分が特別になれたと感じ有頂天になる。前原さんにもそういう面はあるのだろうか？ 「それは僕にはないんですよね。何かあっても『いやいやいや』と自分を抑えるほうかもしれません。あまり浮かれると自分の方向を見失いそうだなっていうか。あと、数年前に自分の中で、もうこれを超えることはないだろうなっていう喜べる仕事を経験したので、それ以降、浮かれるって状態につながりづらいところもあるんですよ」
拓也が出会う、トラブルの原因となる謎めいた女性“りえ”を演じたのは、映画『初恋』『佐々木、イン、マイマイン』などに出演の小西桜子さん。「拓也とりえが対峙して本音をぶつけ合うシーンがあったんですが、監督も含めて３人でしっかり話し合って作り上げていきました。小西さんとは初めてのお仕事だったんですが、りえと同じようなつかみどころのなさもあって。けれど、やっぱりちゃんと芯がある方で。小西さんはご自分の美的感覚とか言葉の感覚とかそういうものを大切にされているんだろうなと感じました」
人が本当に思っている言葉こそ
ありきたりじゃない言葉なんだと思う
本作の印象的なタイトルについても前原さんに聞いた。前原さんにとって「ありきたりな言葉」とはどういうものだろうか？ 「世の中にはありきたりな言葉しかないんじゃないかとも思ってます。世の中に羅列されている言葉って、ある程度もう出切ってるというか。ありきたりじゃない言葉も、使う人が増えたときに、ありきたりな言葉になっていきますよね。たぶん、その人が本当に思っている言葉こそありきたりじゃない言葉なんだと思います。例えば、僕が好きな人に対して言う『好き』って、本気で僕が思っている『好き』だし、僕にしか出せない『好き』じゃないでしょうか。『好き』って言葉自体はありふれていて誰でも使う言葉ですけど、その人が思って発している言葉なら借りものではない、その人の言葉だと思います。そういう意味でも面白いタイトルですよね」
前原さんからは含蓄のある言葉が聞けたが、果たして主人公の拓也はその境地にまでたどり着けたのだろうか？ 「映画の中で言うと、たどり着くためにもがき始めたみたいなことじゃないですか。まだまだ拓也は自分の中から出た言葉じゃなくて、人の言葉を借りるんでしょうけど、そこを突き詰めたら彼自身の言葉になるんじゃないかと思います」
俳優
前原 滉
1992年、宮城県出身。2017年の映画『あゝ荒野 前編』や2018年連続テレビ小説『まんぷく』や2019年ドラマ『あなたの番です』など話題作に出演。近年ではドラマ『スカイキャッスル』『クラスメイトの女子、全員好きでした』や映画『笑いのカイブツ』などに出演している。
INFORMATION
『ありきたりな言葉じゃなくて』
テレビの構成作家として働く藤田拓也は、テレビドラマで待望の脚本家デビューを果たす。だが、偶然入ったキャバクラで出会った“りえ”と親しくなったことから、思わぬトラブルに巻き込まれていく……。監督・脚本：渡邉 崇 原案・脚本：栗田智也 配給：ラビットハウス 12月20日（金）より全国公開
©︎2024 テレビ朝日映像
photo : Kazuo Onodera text : Gentaro Taketomi
styling : Takashi Usui (THYMON Inc.) hair & make : YUKIYA (SUN VALLEY)
