動画を観ながらの寝落ちはカラダによくないが、映画で眠気を誘発するのは体調を整えるのに賢い方法かもしれない。快眠のために狙うべきは脳内の幸せホルモンの分泌促進だ。ここではβエンドルフィン、オキシトシン、セロトニンの3つに注目。それぞれの効果とそれを手にいれるために見るといい映画を紹介するよ。
βエンドルフィンは
心地よい音で生まれる。
過激に言えば脳内麻薬。脳内で働く神経伝達物質の一種は、苦しみや痛み、ストレスから解放し、集中力を高め、気分の高揚や幸福感をもたらす。長距離走選手が体験するランナーズ・ハイもこのホルモンの賜物と言われている。では、それをどんな映画で分泌させるのか。βエンドルフィンは、一定または不定のリズムを刻む環境音を聞くことで得られるとされている。換気扇やテレビの砂嵐、やや強い雨や滝の音など、俗にホワイトノイズ、ピンクノイズといわれるものがちょうどよく、幸せホルモンの分泌を促すとともに心地いい気分にしてくれる。静かな図書館では集中できないが、カフェなら勉強が捗る、なんて学生の言い分も、環境音から得られるβエンドルフィンの効果だ。そこで注目してほしいのが『ノマドランド』と『ヴィダル・サスーン』という2本の映画。それぞれから聞こえる淡々としていながら輝かしい環境音は、心を自然と穏やかにしてくれるはず。
一定のリズムで刻むハサミの動きに夢中。
『ヴィダル・サスーン』
ブランド創設者の自伝映画は数多くあれど、ここまでドラマチックな人生を歩んできた人はいないだろう。サスーン・カットと言われる斬新なカットで名を馳せた、ヴィダル・サスーンにフィーチャーした1本がこちら。歳老いてもなおバイタリティーあふれるマインドで挑戦を続ける、彼の姿には勇気をもらうはず。その一方、ときおり響く古い動画の音、交流を深めたそうそうたるメンバーのインタビューなど、控えめな抑揚で自然に流れる音を聴いていると心が次第と落ち着いてくる感覚に。

オキシトシンは
ふれあいの中で得る。
つい見入ってしまう動画の代表格といえば動物動画。犬や猫はもちろん、多種多様な動物の様子があまたの動画に収められ、公開されている。オランダのアザラシ幼稚園には多くの日本人が巨額を投げ銭し、今は国に帰ってしまった上野動物園のパンダはほぼ動かないのに巨大なアクセス数を稼いだ。それだけ現代人は動物に癒やされたいのだ。心を落ち着かせてくれる神経伝達物質のオキシトシンは、触れ合うことはもちろん、動物を眺めるだけでも分泌される。実話ベースでも完全なるファンタジーでもいい。そこに微笑ましくも感動できるストーリーが乗れば、今これを読んでいる映画好きの人たちも、日々の疲れは吹っ飛ぶだろう。その中でもテッパンの2本を紹介しよう。ちなみにオキシトシンは涙することでも分泌されるというので、どちらもちょい厚めのタオルを用意して、ご覧あれ。
人間同士では敵わない純真無垢な犬の愛情。
『僕のワンダフル・ライフ』
ペットロスの辛さは経験した人にしかわからない。星となった相棒を思い続ける人もいれば、心を埋めるために次の子を迎える人もいる。一方で、その相棒は飼い主のことをどう感じていたのか。もう一度、この人のもとに? このピュアな愛と信頼を実際に感じ取れたら、これほど幸せなことはない。ファンタジー作品とわかっていても、主人公(主犬公?)のチャーミングな表情と仕草に乗ってぐんぐんと心に染み渡り、温かい気持ちにしてくれるはず。

セロトニンは
エモいことであふれ出る。
幸福ホルモンを表現するには恋愛でたとえるのが1番。恋の初期段階はやる気を引き出す快楽ホルモン、ドーパミンを分泌。一方で家族やパートナーとの穏やかなふれあいや愛情はオキシトシンを分泌する。では、セロトニンは? 答えは、目の前にある幸せに反応するという。空が青いなぁ……。空気がうまいなぁ……。当たり前のようでかけがえのない、淡くてちょっと切なく、それでいて輝かしい。そんな感情の表現は難しいけれど、最近は便利な言葉がある。それが「エモい」だ。エモさに反応して出るセロトニンは、睡眠と覚醒のリズムを整えるメラトニンの分泌を促進し、安眠へと誘う。『First Love 初恋』の出会い直しの物語は、もしかしたら切ない昔を思い出し懐かしむキッカケになるかも。また『アバウト・タイム』には、今日を過ごすことがいかに尊いかを教えてもらえた。どちらの作品も大人こそ、エモく感じられる作品なのだ。
すれ違いは切なくそれでいて愛おしい。
『First Love 初恋』
「初恋は成就しない」が定説だが、なかったことにするのは話が違う。トラウマの場合は除き、上手くいった場合も失敗した場合も、すべてひっくるめてエモいこととして心に残す。そうして時々思い出すのもいいだろう。その手助けとなるのがこちらのNetflixドラマ。挿入歌もまた、21世紀になる瞬間を待ち遠しくしていた世代にササる。特に作品タイトルにある2曲の発売は、それぞれ1999年と2018年。挟まれた20年を懐かしみながら、エモさに身を委ねてみては?

4つの幸福ホルモンを同時に分泌できる!?
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』
生きることは、選ぶことの連続。選ぶことは、捨てることの連続。そのすべてを覆すタイムトラベルの能力は、まさに人生への冒とくだ。そんな作品をなぜピックアップしたかというと、主人公のティムが最後に選択をするから。そしてこの写真のように、雨の中で思いっきり泣き笑いするシーンへとつながる。この1本を観れば、笑って泣いて、エモい気持ちとやる気に満ちてくるだろう。もしかしたら幸福ホルモンすべてを分泌できるスペシャルな映画かも。

edit&text : Yuta Yagi special thanks : Yudai Yamamoto