胃袋と感性を刺激する、春の「富山」へ。

旬のホタルイカ、絶品“富山湾鮨”、そして極上サウナを巡る大人旅。

あったかくなり始め、アクティブ派の大人たちは「次、どこへ行こうか」とソワソワし始めている頃じゃないだろうか。サーフィンやキャンプといった、いつものルーティンもいい。けれど、今の時期にしか出会えない「旬」を追いかける旅も、大人の贅沢というもの。そんな気分にぴたりとハマるのが、富山県だ。春の使者・ホタルイカが旬を迎え、「寿司といえば、富山」という言葉がもはや合言葉となっているこの地の、今しか味わえない魅力を深掘りしてみた。

漆黒の海に浮かぶ青い宝石。「ホタルイカ」の真髄に触れる。

3月の漁解禁から本格的にスタートした、富山湾のホタルイカ漁 。富山湾で獲れる個体は、他県産に比べて大きく丸々と太り、食感も格別だ。その秘密は、富山独自の「定置網漁」にある。通常、水深200〜600mの深海に生息するホタルイカだが、3月から6月にかけて、産卵のために岸辺近くまで浮上してくる。その沖へと戻る道筋に網を仕掛けて獲る手法が定置網漁だ。網の中で泳ぐホタルイカを優しく汲み上げるため、魚体に傷がつきにくく、鮮度と美しさが保たれるのだという。

深夜、滑川(なめりかわ)春網定置漁業組合の漁船に乗り込み、実際の漁の現場に足を運ぶと、そこには驚きの光景が。網にはホタルイカだけでなく、大量のイワシの姿もあった。例年なら1〜2月に獲れるはずのイワシの時期がずれ込み、この時期に入り込んでしまったのだ。3月とはいえ、海上はまだ凍えるような寒さ。その中で黙々と、手作業で手際よく仕分けを行う漁師たちの姿には、食を支えるプロの矜持を感じずにはいられない。さらに、運が良ければ「青い宝石」とも称されるホタルイカが放つ、幻想的な光を見ることもできる。

その美しさに目を奪われつつも、やはり気になるのはその「味」だ 。美味しいホタルイカの見分け方や生態について、東京海洋大学の大学院生であり研究を続ける大屋さんに話を伺った。実は、美味しいのは雌。その生態について知的好奇心を満たした後は、水橋漁港に隣接する「水橋食堂 漁夫」へ。

ここは現役のホタルイカ漁師がオーナーを務める、まさに“漁港の特等席”だ。新鮮な刺身を豪快に盛り付けた海鮮丼、そして出汁にくぐらせてぷっくりと身を膨らませる「ホタルイカのしゃぶしゃぶ」。獲れたてだからこそ実現する贅沢な朝食は、早起きをしてでも味わう価値のある、究極の食体験だ。

「寿司といえば、富山」を証明する、三者三様の美食体験。「寿司といえば、富山」。

県が力強く発信するこの合言葉を、今回の旅で何度反芻したことだろうか。まず訪れたのは、富山市内の「歩(あゆみ)寿司本家」。提供されるのは、富山湾の「天然の生け簀」が育んだ地魚の握りだ。シロエビ、ノドグロ、カワハギ……旬のネタが次々と目の前に並ぶが、中でも「富山の宝石」と称されるシロエビは絶品。口の中でとろける甘みとプリプリとした食感は、富山でしか味わえない贅沢の極みと言える。実は富山県では、こうした「地元に来たからこそ堪能できる贅沢」を「富山湾鮨」と命名し、県内40軒以上の寿司屋で提供している。職人の技と地魚のポテンシャルを、明朗会計で楽しめるのも嬉しいポイントだ。

さらに、富山の夜をよりディープに楽しむなら、「寿司で〆るスナックハシゴ旅」というユニークなアクティビティを推したい。観光客の多くが日帰りで帰ってしまうという悩みを解消すべく、夜の街を楽しんでもらおうと企画されたこのツアー。地元案内人に導かれ、ノスタルジックなスナックを巡る。今回伺ったのは、趣のあるスナック「bar雅」。

1軒目は貸切状態でママと会話しながら寿司を堪能し、2軒目では寿司をイメージしたおつまみと共に地元の常連客との会話を楽しむ。ガイドブックには載っていない、地元の人しか知らない話に触れる。一人では決して辿り着けない、温かくもディープな「富山の夜の文化体験」がそこにはあった。

また、少し足を延ばして道の駅「生地(いくじ)」へ向かえば、また違った寿司の楽しみ方に出会える 。それが、朝日町の名所「あさひ舟川 春の四重奏」をモチーフにした、華やかな「バラちらし寿司」だ。残雪の朝日岳、桜、チューリップ、菜の花が織りなす四層の絶景を、厳選されたネタの色彩で見事に表現している。目でも舌でも富山の春を愛でる、粋な一品だ。

アートとサウナで、心身を「禅」の状態へととのえる。

アクティブに遊び、美食を満喫した後は、宿にもこだわりたい。今回選んだのは、魚津市にある「ホテルグランミラージュ」だ。ここの最大の特徴は、2024年に誕生した大パノラマの浴場施設「スパ・バルナージュ」。浴場内に足を踏み入れると、まず目を引くのが、世界的なアーティスト・舘鼻則孝氏が手掛けたタイル画だ。伝統と現代アートが融合した空間で、湯に浸かりながら感性を磨く「アート浴」が楽しめる。そして、サウナ好きにはたまらない環境が整っている。 富山湾を一望できる海側のサウナは、開放感抜群。一方で、室内には「禅」をイメージしたメディテーションサウナも用意されており、こちらは自分自身と深く向き合い、じっくりと「ととのえる」空間になっている。サウナ室のすぐ横には水風呂があり、導線も完璧。驚くべきは、水風呂の水が蛇口から直接飲めるほど清らかであること。立山連峰が育んだ天然水に包まれる贅沢は、まさに富山ならでは。自分のスタイルに合わせて楽しめるサウナと中温の水風呂の組み合わせは、旅の疲れを完全に解き放ってくれるはずだ。

もっと深く、この土地の「粋」に触れる。

腹が満たされた後は、富山のアイデンティティを肌で感じる散策へと繰り出そう。訪れたのは、昆布の消費量日本一を誇る富山を象徴する「四十物(あいもの)昆布」。かつての北前船交易がもたらした昆布文化は、今も富山県民の食生活に深く根付いている。続いて、歴史ある街並みが残る岩瀬エリアへ 。ここでは、富山を代表する銘酒「満寿泉」の蔵元、枡田酒造店の直営店「沙石」にて唎酒を堪能。伝統を守りつつも、革新的な挑戦を続ける酒造りの姿勢に感銘を受けた。さらに、次世代の職人を育成する「北陸すしアカデミー」の開校式にも立ち会うことができた。魚の扱い方から技術までを教え込み、日本の食文化を守ろうとする情熱が、この地には満ち溢れている。

歴史と現代、海と山、そして食とアート。富山の旅は、単なる「観光」を超え、訪れる者の感性を刺激し、リセットしてくれる。この春、まだ見ぬ「旬」を求めて、フットワーク軽く富山へ足を運んでみてはどうだろうか。そこには、大人の知的好奇心を満たす、至福の時間が待っている。

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