自然と背筋がピンとなる店を知っていますか? その歴史や佇まい、訪れた客へのさりげない気遣いなど、真摯に仕事に向き合う店は訪れるだけで心地いい。そんな店を紹介するので、ぜひ訪れてみよう。
古民家に伺う、
凛とした心地よさ。
素足で古民家に上がらせていただく。
蕎麦おさめ
古民家住まいの凛とした知人を訪れるとき、三和土(たたき)で靴を脱ぐ。ふと〝人様の家に上がらせていただく〟という意識を抱き、なんとはなしに背筋が伸びる。こののれんの向こうにもそんな空気がある。
目白の小道に佇む『蕎麦おさめ』は、2018年に西麻布の新築ビルの2階にのれんを掲げた。その5年後の23年に現在の古民家に移転して、そこから落ち着いた大人の客が増えたという。「こちらに移転してから、お客様に香水についてお願いする機会は減りました」と主人の納さんは微笑んだ。
この店で注文できる蕎麦は「せいろ」「粗挽き」「玄挽き」の3種類。全国の産地から選りすぐりの在来種の蕎麦の実を取り寄せていて、産地や挽き方による、香りや味わいの違いを楽しむことができる。


まっとうな飲食店を訪れるとき、香水をつけてはならない。とりわけ繊細な香りを楽しむ蕎麦店では絶対のルール&マナーといっていい。少しのにおいでも、ほのかな風味の違いを味わいに訪れた相客の楽しみを台無しにしてしまうからだ。「香りの強いボディクリームを塗られたお客様に、おしぼりで腕をぬぐっていただくようにお願いしたこともあります」
味への気遣いも実に細やかだ。冷たい蕎麦は香りが立つよう、冷やし込み過ぎない。卓上に置かれた醤油も「長く常温に置いておくと酸化して味が変わるから」と各卓で毎日使い切れる量だけを提供する。
のれんの前で感じるのは蕎麦を楽しみに訪れる客への愛情。愛と味の深さに思わず背筋が伸びる。

背筋が伸びるPoint
靴を脱いで上がる
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お話を聞いたのは……
店主 |
【Shop Information】
蕎麦おさめ
住:東京都新宿区下落合3-21-5
☎︎:03-6908-2362
営:11:30~14:00L.O、17:30~20:00L.O
休:月・火曜
HP:soba-osame.com/
ランチは昼のそば三昧コース5500円のみの完全予約制。
夜はコース9900円のほか、目移りしそうな充実の単品注文も可能だ。
昼夜ともワンドリンク制なので要注意!
シームレスだからこそ
己を律する。
厨房と敷居のないカウンター。
ブルスタ
わずか7席。狭小イタリアンのカウンター席には厨房との段差がない。しかもオーナー店主の西山さんは一見なかなかの強面だ。だがワイン片手に語らえば、実は気さくな人柄が露わになり、和やかな空気が店内に満ちる。もっとも締めるところは締める。卓上にバッグを置く客には即座にほかの置き場所を案内し、置いたスマホが段差のない作業台との境界線を超えると「この線の内側に入らないでください」と柔らかなバリトンボイスを響かせる。
段差がないからこそ、客も己を律しなければならない。ワインはフリーフローだが、勝手に注ぐのはNGだ。ここでは西山さんに注いでもらうのがルールである。それさえ守れば、肉イタリアン×フリーフローの天国がここにある。素材から調味まで作り込んだ前菜を、がっちりした体躯を縮めるように繊細に盛り合わせる姿はチャーミングですらあるのだ。炎の中で豪快に焼き上げる『サカエヤ』(滋賀県)直送の近江牛の火入れは、大胆かつ精妙な焼きに磨きがかかり、安定感を増した。
敷居のないカウンターの境界線は、そこを飛び越えずとも心と味を通わせるホットラインなのだ。


背筋が伸びるPoint
段差のないカウンターと厨房の作業台!
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お話を聞いたのは……
店主 |
【Shop Information】
ブルスタ
住:東京都中央区日本橋浜町2-60-2 パークサイド日本橋 1F
営:18:00~22:30(最終入店19:00)
休:日曜・祝日
Insta:@brusta_italian
ブルネッロコース1万6500円は、近江牛のグリルや前菜盛り合わせなど数皿に約10種類のワインフリーフロー付き
photo : Tomoo Syoju(BOIL)、Kouki Marueki(BOIL) edit & text : Tatsuya Matsuura