クラシックカーをはじめとするアメリカンカルチャーに精通するIKURAさんが、カッコいいクルマを紹介していく当連載。第2回に取り上げるのは、各年式のものを乗り継いできたというインパラだ。そして今の気分はこの1967年式のSSだという。
台数が限られているスーパースポーツモデル。
「ボディの形状はオリジナルのまま、すべてに手を入れました。色は黒に塗り替えたんだけど、今になって思えば純正のブルーもカッコよかったから、戻したいなぁなんて思うときもあるんですよね」と、クルマの全体が眺められる少し距離を置いた場所で語り始めるIKURAさん。
最初に買ったアメ車がモンテカルロで、その次が60年式のインパラ。以来、各年式のインパラを買っては売りというのを繰り返し、40台近く乗り継いできた。「年式ごとにボディの形状が違うし、インパラが好きなんでつい買っちゃうんですよ。でも、この67年式のインパラを手に入れてからは買い替えてないなぁ」。何台もクルマを所有しているが、インパラは25年近く乗り続けている特別な愛車だ。
「以前、僕はボロボロのクルマを再生させるテレビ番組をやってて、そのときに10台くらい作った中の1台なんですよ。70万円で手に入れて、エンジンはオーバーホールしてキャブからインジェクションに変更して、サスとかブレーキとか足まわりも全部替えて、シートも張り替えて、メーターも全部入れ替え、エアコン仕様にして、屋根も張り替えて、やれるところは全部やりましたね」。
当時はアメリカで1万ドルくらいで買うことができたインパラだが、今では大人気車種となり7万ドル近くの値がつくこともあるという。かくいうこのインパラも、売るとなったら1300万円以上となるようだ。「希少なナンバーズマッチだし、SSっていう高性能スポーツモデルだから、さらに台数が限られている。いま気になってる64年式のインパラがあって、買い替えようかなぁ〜なんて思うこともあるんですけど、そう考え始めるとクルマってすねて壊れ始めるんですよね(笑)」
今のクルマでは考えられないほど、純正は細いステアリングホイール。メーターまわりもオリジナル形状を維持しながらすべて最新の製品に換装し、エアコンまで装備している
現在のクルマは安全性を保つため、基本的にはドアに窓枠がつくが、インパラはハードトップ仕様でドアに窓枠がなく、後部にもピラーがない。ゆえに前後のウインドーを全開にできる
通常のインパラは後方1本出しマフラーだが、このインパラはSSモデルなので、両サイド出しスラッシュカットマフラーになっている
ラリーホイールの隙間からチラリとのぞくブレーキは、ドラムからディスクブレーキに変更し、ハイスペックなドリルドディスクを装着
一般的なインパラはベンチシートとなっているが、スーパースポーツの略であるSSモデルはシートが分割式に。シートは張り替えて、新品同様となっている
グリルにはスーパースポーツのロゴが施されている。インパラに関しては、ボックスシートになっていないSSがIKURAさんの好みに合うようだ
あの映画でもインパラは主役級のカッコよさ!
クルマはボディとエンジンそれぞれに同一の車体番号が刻まれる。ナンバーズマッチとはその車体番号が一致していること。古いアメ車でもエンジンを載せ替えれば現役続行できるが、車体番号は一致しなくなる
「このインパラが生産された67年はオーティス・レディングが亡くなった年なんですよね。まだ日本ではあまり黒人音楽が紹介されてなかった時代。アメリカではボビー・ヘブとか、R&Bチャートがメジャーなシーン。そのころの音楽は片っ端から聴きましたね」。とはいえ、61年生まれのIKURAさんは、まだ6歳。小学校に入るか入らないかという年頃なので、そのシーンをタイムリーに体感しているわけではない。
「幼稚園のころ、おばあちゃんの家に行くと、オーティス・レディングの曲がよくかかってたんですけど、僕が音楽にのめり込んだきっかけはビートルズかな。70年に解散するんですけど、前年の69年に僕は40日間くらい入院して、そのときにずっと聴いてたんですよ。小学3年生で『レット・イット・ビー』のレコードを買って、そこから遡って古い曲を聴きだすようになって。ビートルズの『ロール・オーバー・ベートーヴェン』を、これはチャック・ベリーって人の楽曲だって知ってからは黒人音楽にどんどんハマっていきました。
中学生になったら不良になってて、もうそうなるとソウルミュージックでしょ(笑)。で、その中学生のときに観た映画が『アメリカン・グラフィティ』。サンダーバードやデュース・クーペとかが主役車に見えるけど、テリーが乗ってた58年式のインパラもカッコいいんですよね。デートの別れ際に、バイバイしながらインパラを発進させるんですけど、テリーはダサいヤツだからギアを間違えてバックに入れ、アクセルを踏んでしまって事故る。僕はぶつからなかったけど、リアルに同じことをやってしまったことがありました(笑)。58年式から70年式までのインパラが好きで、66年式以外は全部乗りましたね」
インパラのテールランプは各年式によって形状こそ異なるが、横並びの3連スタイルは変わらずに踏襲。これがアイデンティティにもなっている
「昔、気に入ったミラーを基調にして、クルマを作っていったこともあるんですよ」と話すIKURAさんは、ミラーにも強いこだわりを持つ
純正SSはショートストロークの327キュービックインチV8エンジンだが、ケースはオリジナルのままハイカムに組み換え、キャブからインジェクションにチェンジ。高性能な仕上がりに!
〈Profile〉 IKURA 井倉光一 |
写真/正重智生(BOIL) 文/野上真一(SIESTA PLANET) 撮影協力・オーナー/井倉光一